今日は愛しい奥さんの誕生日。
策略結婚の偽夫婦なんていうけど、
そんなん、あいつのそばにいられるんや、どうとでもいわせとけ!!!
で、ケーキなんて作ってみたりして。

でも本当は、こんなときくらい甘えて欲しいんやけどな。
・・・なんて。


Un olor fiable



「ローデリヒ-…なんや珍し、シエスタ中かいな」

勝手知ったるなんとやらで窓から侵入したローデリヒの部屋。
読書中だったのか、椅子にもたれて目をつぶる彼がいた。

「まぁた、難しそうな本読んでんやなぁ」

膝の上に置かれた本がパラパラとめくれる様を見遣って、そっとそれを机の上に置く。
ついでに眼鏡を慎重にはずして、本の上に重ねた。

「なぁ、ちゃんと布団はいらへんと、いくらシエスタ中やて風邪ひくで?」

声をかけるが反応はあるはずもなく、仕方なく持ってきた箱を本の隣に置く。
そして寝息を立てるローデリヒをゆっくりと椅子から抱き上げた。
柔らかなローズブラウンの髪が、頬をくすぐる。

「…ん」
「悪い、起こしてしもうた?ベット連れていこ思ぅたんやけど…自分でいける?」

小さく声を上げて、いつもは眼鏡ごしの瞳がぼんやりと俺を捕らえる。
ローデリヒは小さく身じろいで、首に手を回してきた。
珍しすぎる行動に、つい抱きしめる手が固まる。

「…アントーニョ…?」
「そ、そやで~。お前の誕生日やからケーキ作って持ってきたんや。お前のんが美味いのはわかってんねんけどな、
やっぱお祝いの日は他の人が作ったやつ食いたいやろ?」

うとうとと瞳をゆるませたローデリヒは鼻先をくしくしと首にすりつけてきた。
甘えるその動きと言ったら、フェリちゃんやロヴィーノを軽く飛び越えるかわいらしさで。

「…すごく…好きです」
「な、何!?」

突然の台詞に顔から火が出そうになる。
ローデリヒはうとうとしたまま、言葉を続けた。

「…あなたの、ケーキ」
「あ…ああ!そやの?そらよかったわぁ!」
「…あと、あなた…」
「ん?」
「…おひさまの、においが…しますね」

鼻先をまたすりつけて、小さく笑う。
そのローデリヒの動きは我を忘れそうになるほど可愛くて…

「ろ…ろーでりひ…っ」
「…」

思わず上ずる声を無視して、ローデリヒは瞳を閉じる。
すぅすぅと規則正しい音が、押し倒そうとした己を止めた。

「くぅ…っ…かわええやないのぉ…っ」

必死に己を奮い立たせ、ローデリヒをベッドに横たえさせる。
そのまま起き上がろうとして引っかかるなにかに阻まれた。

…俺の首に回されていたローデリヒの手が、俺を捕らえたまま離れない。

「…あの~、ローデリヒ?」
「…」


すうすう、と寝息しか返ってこない。
なんちゅう無防備な。


「…どないせいっちゅうねん」


…と、ものすごい力で引き寄せられた。

「のぉっ…とっ…とっ」

倒れこむが、上にのしかかるのはなんとか免れた。
ローデリヒは抱き枕のように俺の頭を抱きしめて
なんとも幸せそうに眠っていた。

「…しゃあない、俺もシエスタや・・・・Feliz Cumpleaños」

くっくっ、と込み上げる笑みを抑えながら。
ローデリヒの胸に顔をうずめて目を閉じたのだった。





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去年書きかけで間に合わなかったものを加筆(笑
ローデリヒ、Feliz Cumpleaños!!(誕生日おめでとう!)
ちなみにタイトルは信頼できる匂い。
匂いフェチか!?(笑