ある他愛のない日常



吸血鬼も、狼男も、透明人間も。
想像上の生き物だと言われ、実際存在はしていない。
…君の住む、地上では。

ここはメルヘンランド。
ポッパーが多く住む、異界の楽園。
その北の外れにある大きな古城。
そこに吸血鬼のユーリは住んでいた。

「うう…」

古城に獣のようなうめき声が響いた。
床に転がりうめくのは城の主ではない。

床についた緑の髪はぼさぼさで目を覆うほどに伸び、耳は獣人のそれ。
彼の一張羅であろうぼろぼろのロングジャケットは、包帯で巻かれた両手に握られさらにぐしゃぐしゃになっている。
古城の主、ユーリが暇つぶしに、とはじめたバンド、Deuilのドラマーであり、料理人のアッシュだ。

「どうした?」
「お腹…痛いっス」

空から舞った銀髪赤眼の妖艶な吸血鬼…ユーリの問いかけにアッシュは脂汗を垂らしながらそうとだけ呟いた。

「腹だと?」
「拾い食いでもしたんじゃないのかい?」
「ユーリ…いくら俺でも調理されてないものをくわねっスよ…」
「いまのは私じゃない」

無表情を顔に貼り付けたまま、ユーリは空を指差した。
そこに浮くのは見覚えがある白い歯。

「スマ…きてたっすか」
「そろそろ新曲をって思ってさ〜でもアッスくんがこれじゃあね〜」

そう言いながら姿を現したのは体中の包帯が目を引く蒼髪の青年・・・透明人間のスマイルだった。

「なんでもいいから胃薬とかはないのかい?」
「アッシュ、どこにある?」
「この城で薬なんて常備してるわけないじゃねっすか…」
「流石主夫、城の主よりここのことは把握してるね〜」

ヒッヒッヒ、と笑うスマイルに一瞥をくれ、ユーリは部屋へと入っていった。
しばらくして一枚の紙を持ってき戻ってくる。

「それはな〜んだ?」
「メルヘンランドの地図だ。この間KKが置いていった」
「KKくんきたの〜?」
「よく遊びにくるっすよ。あとサイバーとか…」
「…ここか」

地図をたどっていたユーリが、一箇所を指差し確認する。
そしておもむろに床にうずくまるアッシュを抱き上げた。

「ひゃ!」
「ユーリってば力持ち〜」
「お、おろして欲しいっス!!!」
「うるさい、病院に行くんだ、黙っていろ」

そう言って、背中の羽根を大きく開く。
華奢な腕からは考えられないような大きな力で支えられ、空へと浮き上がる。


ばさっ。

小気味良い音が天に響いた。





「…って、ここ」

ユーリが病院、と称した場所を見上げ、アッシュは唖然とした。
メルヘンランド中心にあたる繁華街、確かにそこにはいきつけのスーパーや病院がある。
しかし、3人が立つそこにはデカデカとこう書かれていた。

『メルヘンわんにゃん病院』

「動物病院じゃねっすか!!!」
「そうだが?」

しれっと答えるユーリに脱力感を覚えながら、アッシュは助けを求めるようにスマイルを見た。

「ヒッヒッヒ、アッスくんはやく狼に変身したらどう?」
「…スマイル…」

誰の援護も受けられないまま、アッシュはうなだれるしかなかった。




「腹痛の原因は昼に食ったたまねぎだったんすけどね…」
「え、結局のところ、アッシュってばその動物病院にいったんか?」

城の中庭でお茶を飲みながらサイバーは笑いすぎで滲んだ涙をぬぐった。
隣に座るマコトも興味津々に聞いている。

「いや。ちゃんとかかりつけの普通のほうに行ったっすよ」
「そっか〜」

まるで残念、とでも言わんばかりに椅子に座りなおすサイバーを見ながら、
マコトは楽しそうに頬つえをついた。

「でも、随分ユーリくん心配してたんだね」
「え?」
「だって、いつもなら病院にでも行ってこい、とか冷たく言うだけじゃない?
それをわざわざ病院を調べて自分で連れて行くなんてさ」

「まあ、病院を間違えたのはそれだけ動転してたってことかな?」

そこまで言って、まことは城の上のほうを見上げる。
そこには窓へりに腰を掛ける吸血鬼の姿があった。

「…ユーリ」
「犬を動物病院に連れて行くのは飼い主の義務なのだろう?人間」
「まあ、そういうことにしといてあげるよ」

フン、とつまらなそうに空を眺めるユーリ。
心底楽しそうに笑うマコト。
複雑な心境でお茶を注ぐアッシュ。

それを見たサイバーが、なにか思いついたかのようにこう叫んだのだった。

「アッシュってば、ユーリに愛されてんのな!!」




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落ちてねーーー(滝汗

久しぶりのポップン小説でした。
最近めっきりポッパーからも遠のきまくりなのですが
相変わらずDeaul好きです。。。

で、前に書いたらしい書きかけ小説があったので
加筆してみました
(加筆前はアッシュが「腹いてー」といってるとこまでだった罠)

楽しんでいただけたなら幸いです。