それは、ささいな一言がきっかけだった。


言葉の由来



これは、ロイが軍機関の寄宿舎にいたころの話。
場所は寄宿舎の談話室。

宿舎の面々は様々な話で盛り上がっていた。

「なあ、ヒューズ」
「ん?」
「そういえばお前、特技とかはないのか?」

仲間からの質問にヒューズは首を傾げる。

「特技?…この素晴らしい会話テクニックとかか?」
「違うだろ」

ヒューズの答えを、隣に座っていたロイは間髪いれず否定した。
仲間もうんうん、と首をふる。

「例えばマスタングは焔だろ、…錬金技術という訳ではなくな。ディルの爆弾解体やファースのモールス早打ちのような…」
「あるじゃねえか、この、あふれる美貌が…嘘だよ、そこ、手袋つけるんじゃねえ。」


「…確かに俺には軍人として有益な特技はないな」

ふぅ、と溜息をつき白状するヒューズ。
その横でロイが小さな声で悪魔の一言を発した。

「…能無し、ということか」
「能無し…おいおい、随分な言い草じゃねえか」
「おや、気に触ったか?」
「ちょっとカチンときたな〜」

二人とも笑っているが、空気が濁ったものになっていく。

「まあ、誰かさんは焔しかないもんなぁ〜…雨の日とかは、無能さん。なんだろ?」

その単語に周りのものはぶっ、と吹き出した。
言われてみればそのとおりだと頷くやつまでいる。

「むっ…無能だと!?」
「なんだ、本当のこと言われて言葉も無いか?」

「この…口だけ男が!」

「なにを!?この無能!」



「「……」」


このとき、二人の間で、何かが切れた音が

聞こえたとか、聞こえなかったとか…。


がったーーーん!!!



「うわ!!」
「おい!!やめろって!!!!」

突然とっくみあいの喧嘩が始まり、談話室は騒然となった。

「ったく!なにしてんだよ〜」
「早く二人を押さえろ!!」
「馬鹿!マスタング!焔はご法度だぞ!!」

「……!」


「…」








それから、無能、という単語が寄宿舎…ひいては中央で大流行してしまった。

特に『マスタング=雨の日は無能』という図式は、公然の事実として確立されてしまう。





そして現在…


「大佐〜!あんた雨の日は無能なんだって〜?」

意気揚々と入って来るエドの悪魔の言葉に、
ロイは、隣で笑っている諸悪の根源を睨み付けた。

「ヒューズ…貴様のせいで…」
「仕方ないだろ〜、あの頃は二人とも若かったのさ。それにお前が無能なのはホントのことだし〜」

そこまで言って、ヒューズはにやりと口元を歪めた。

「それに俺は、今は能無しじゃないから」

手入れをしていたナイフをひらめかせ、ヒューズはにやにやと笑った。

「……っ」

言葉も無くロイは机に突っ伏す。



あいかわらず口の上手い戦友には、
未だ敵いそうもないのだ。



◇◆◇◆◇◆

2003/12/3 UP

過去捏造話(爆)

なんか談話室、というとハリ●タのようにかんじる(笑)
同年代の仲間をかなり捏造してみました。
2004年のカレンダーを見てて、思わず書きなぐった一品です。
あの絵最高!!!!
パワード付録のポストカードだったとか…なんで買わなかったんだろう(超悔)