まだキレイなままの雪の絨毯に
二人で刻む足跡の平行線



私とお前が見た、最初で最後の銀世界。



スノースマイル  〜Prologue〜




あれは去年の冬の東部のこと。

こっちで調べものがあるというヒューズが列車で東方司令部にきて、
仕事が手間取ったんで、二人して仮眠室でちょっと睡眠を取って。
次の日、
数日降っていた雨がとうとう雪に変わった。

私もあいつも雪なんて久しく見ていなかったから、おきて外の銀世界につい目を疑った。




「参ったな」

電話を切ってヒューズは頭を掻いた。

寝起きの姿のまま休憩室の一角にある電話を使うヒューズの姿に苦笑を漏らしつつ、
軍服のまま寝ていたロイはベッドに凭れた。

「中央行きの列車は全滅だ」
「やっぱりな。どうする?」
「とりあえず急ぎの仕事はなかったし、動くようになるまでお前の部屋にでもいさせてもらうさ」

ソファに沈みながら、ヒューズはにやりと笑う。

「それはいいな。私も2・3日休みをもらおう」
「…おいおい、それは無理じゃ…」
「さすがに休みは無理かもしれんが、優秀な側近がいれば、今日は昼までには帰れるだろうな」

ロイがにっこりと笑い、ヒューズはしまった、という表情でめがねを外した。

「俺は今、何も見なかった!!!」
「さあ、司令室に戻るぞ。早く上着を着ろ。それともマース・ヒューズ中佐は奥方がいないと着替えも満足にできないのかな?」
「…うるさい!!!つうかさあ…お前その格好のまま寝て気持ち悪くねえ?」
「その郡支給のひよこパジャマを着るよりはましだ」








数時間後、司令部でペンを走らせる二人の姿をホークアイ中尉が見つけた。

「ヒューズ中佐?」

なぜここに彼がいるのかとそばにいたハボックに視線を投げかけてみる。

「この雪で帰れないから、大佐の家に厄介になるらしくてですね…交換条件で仕事手伝わされてるらしいっす」
「…なるほどね」

仕事の進みに関心を示すホークアイの視線に、ハボックはその顔を覗き込んだ。

「この際だから溜まった書類全部持ってこようか、なんて考えてないですよね?」
「……それはいい考えね、ハボック少尉」


足取り軽く資料室にきびすを返すホークアイを見て、
ハボックは小さくヒューズの背中に謝った。



next 2











































































雪って、こんなに真っ白なんだ、と初めて思った。


まだ乾いたままの空のカーテンに
二人で鳴らす足音のオーケストラ



それくらい真っ白な世界に、俺とおまえの二人だけが音を立てる。



スノースマイル2 〜side:Hughes〜


「やっと終わったか」
「…お前、いつもこんなに仕事してんの?」
「………そうだとも。私は優秀だからな」

絶対うそだと思いながら、俺とロイは雪のやんだ大通りを歩いていた。
止んだとはいえ、流石に大雪の後の通りに人気はなく、俺とロイの足跡だけが転々と続いている。

サックサックサック。
サクサクサク。

足音が面白くて、ついつい歩幅が大きくなる。

「おい!ヒューズ待て」

ふと、俺の耳に、隣にいたはずのロイの声がうしろから聞こえた。
はっとして立ち止まり、後ろを振り返るとロイが少し距離を置いた後ろにいる。

「…お前、足遅くね?」
「お前が早いんだ」

怒り顔で雪を蹴り上げるロイの顔を見ると、かすかに上気していて幼い顔がさらに若く見えた。

「歩幅の問題かな?」

ニヤニヤとそうつぶやいて、俺は2・3歩大きく歩いた。
そして後ろを振り返る。
真っ白の世界に浮かぶ一人の青年。
ちょっと絵になるんじゃないか?

「なに人の顔見てニヤニヤしてるんだ」
「いや、昨日お前が言ってたこと思い出してさ」
「私が?」
「「雨なんてうんざりだ、いっそ雪になってくれないかなあ」…ってさ。おかげで俺は足止め。今日はシチュー」
「…なんでシチューなんだ」
「なんとなく食いたいと思ってさー」
「材料折半で、なおかつお前が作るなら考えてやってもいい」
「作れないくせに、なに威張ってんだよ」
「こら、押すな!倒れるだろうが!」

ふと触れた手がひんやりと冷たくて、俺はその手を掴んだ。
ロイも同じことを思ったらしく、俺の手と顔を見返す。

「…お前の手冷たいなぁ」
「お前だって」

そういうロイの右手を握り締めて、俺はロイのポケットに握った手ともろとも突っ込んだ。

「おお…あったけえ」
「なんで俺のポケットなんだ!?」
「だって、俺のジャケットのポケットじゃお前高すぎるだろ?」
「…まったく」
「あ、そうだ。これ渡しとくわ」

そう言って俺は内ポケットから一枚の写真を取り出し、そのポケットに突っ込んだ。

「…何の写真だ?」
「卒業写真。前に頼まれてたやつ、現像終わったって実家から送ってきた」

そういうと、ロイは思い出したかのようにちいさく「ああ、」と言った。

「それより、はやく買い物いこうぜ。また降られたら大変だ」



空を見上げると、重そうな雲がまた空を覆い始めているところだった。



next 3










































































君と出会えて本当によかった。
同じ季節が巡る




スノースマイル3 side:Mastang



今年も雪が多そうだという天気予報に、ロイは小さくため息をついた。
空の上には去年と同じような灰色の雲が、重たそうにゆっくりと流れてゆく。

窓の外の雪景色は去年見たものと同じように見えた。


ただ、違うのは、ここにないぬくもり。




「大佐、もう帰るんすか?」
「私はお前と違ってちゃんと仕事をしてるからな、仕事が終わるもの早いのだよ」
軽く嘯いて、ロイはコートを持ち、外へ出た。

今日はシチューにしようか。
そう思いながらコートを羽織り、ポケットに手を突っ込む。

カサ。

ふとポケットに異物を感じた。



「…ああ」


そういえば、ここにしまったままだったな。
写真の中では、私とお前が笑いあっている。


それを、もういちどポケットにしまい、雪を踏みしめた。

少量しか降らなかった今年の雪。
幾人が踏みしめたであろうそれは、あのときのように音を立てることはなく、
硬く、氷のようになっている。




思い出だけでは生きられないというが。

私にはこれだけで充分かもしれんよ。





ポケットの手紙を指でなぞり、そう心で呟いて、
ロイは帰路に着くために歩みを進めた。




ふわ。


ふと落ちてきた雪に気づいてもういちど灰色に染まる空を見上げた。


雪が一粒、頬に落ちる。


「……っ」

不意に零れた水滴は、雪が解けたものと交じり合って、
つぅ、と流れ落ちていった。





それを見ていたものは、天を覆う雲以外、なにもいなかった。




僕のポケットにしまっていた思い出は
やっぱりしまって歩くよ






君の居ない道を







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2004/10/16 UP

ヒュロイでした。
BUMP OF CHICKENの「スノースマイル」の歌詞を読んで
いてもたってもいられずに、つい書き始め。。。
脱線しつつ、書き上げて。
どうしても1本で表現しにくかったんで3つに分けてみました。

っていっても、下スクロールの代物ですが(吐血



少しでも、悲しい思い出が、いつまでも胸に残る痛みをあらわせたら、と思いつつ。。。(ヲイヲイ

(反転ゴーーー↓



ヒューーーズーーーー!!!!(結局それか。