風が抜ける。
ひゅうっと、小さく音を立て。
俺の軍服のすそを、小さく波立たせて。

さよならさえ遠い、この闇空の下。
ガラスに映った自分のそこかしこから滲む赤黒い液体に
後悔と記憶が脳裏を掠める。



思いが重なるそのまえに・・・



お前はいつだって不機嫌そうに、眉間に皺を寄せる。
そんなお前を笑わせようとして、いつのまにか俺はお笑い担当みたいになっててさ。
でも、俺の馬鹿な言葉でお前が笑うと、無性にうれしくなって、
また馬鹿やっちまうんだよな。

いつからだったかな。
そんなお前がいたから俺はここにいられる、って気づいたの。
そのときから俺は、お前のために生きようと思ったんだ。

ああ、俺のこんな姿見たらお前泣いちゃうかな?
嫌だな、泣いて欲しくないから笑わせてたのに。

前にも確かこんなことあったよな。
イシュバール戦のさなかに流れ弾が腹掠めて…
俺がドジしたのに、お前ってば涙いっぱい浮かべてさ。
部下の前だってのに、俺の手ぎゅっと握って。

あんときにお前言ってたっけ。
「お前が居なくなるんじゃないかって怖かった」って。
そんときゃなにも言わなかったけど、俺も思ったよ。
「お前の思い出にはなりたくないな」って…
でも今は思い出でもいいから、お前の中に残っていたいな。
忘れられちまうのが、何よりも悲しいから。


なんでこんなこと思い出してんだろ?




『ヒューズ!おい!!どうした!?……おい、なんとか言えよ…マース!?マース!!』


…電話ごしにあいつの叫び声が聞こえる。

俺なら平気、と言おうとしたのに、どうしたんだろうな、声が出ないぞ?



聞こえるのは風の音と、切羽詰ったロイの声。




冷たい電話ボックスの床に、赤いなにかが流れてる。
すぐそばにあるのに、受話器が遠い。
ガラスに映った自分のそこかしこから床に落ちてるのと同じ
赤黒い液体が滲んでる。



なんだか寒くてたまらねえよ。
ああ、もう一度、お前の手を握りたいな。

あったかいお前の手、大好きだったから。




ごめんな、こんな姿、またお前を泣かせちまいそうだけど。









ごめんな、ロイ。







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2005/04/30

まえに書きかけで落としていたものを見つけ、
加筆してアップしました。
題の通り、平井堅さんの歌をBGMに。
この曲は聞いても歌ってもヒュロイですよね(泣

ヒュ関連いろいろ書いてきたのですが、
やっぱり最後はここに返ってきてしまうみたいです。
何度見ても悲しくて、何度見ても痛い。
だからこそ生きていた彼がまぶしく感じるのかもしれません。