「流石に2人だと広く感じるね」
「ええ、そうですね」

私に向かい合う位置に座りながら、ジェイドがにこりと微笑んだ。



The one to know eternity




依頼を受け、今朝アンジェリーク達は出掛けていった。
この屋敷には私とジェイドしかいない。

「今回の依頼は少し遠いですからね…帰ってくるのは早くても明日の昼過ぎですね」
「アンジェたち、無事に帰ってくるといいね」
「ええ…心配ですか?」
「二人がついているし、大丈夫だと信じてるよ」
にこりと笑う。

私は知っていた、アンジェがジェイドに一緒に行かないかと誘いをかけようとしていたことを。
ジェイドが出掛ける意思はないのを雰囲気で感じ、レインとヒュウガと共に旅立ったのを。

何故、残ってくれたのですか?


「心配だというならば天気が、かな。雨が降りそうだから」
「…雨?」
「そう、雨」

彼の言うとおり、昼を過ぎて空はどんよりと雲っていた。
空気もどことなく湿り気を帯びて、重苦しい。

「…本当に、降り出しましたね」

窓の外を見上げれば、いつのまにか雫がぱたぽたと庭の木々の葉を揺らしていた。

雨は嫌いだった。
窓に打ち付ける水音が、あの、忌ま忌ましい音を思い出させる。


ごぽ。
ごぽごぽ・・・。

真っ暗な世界。
足元は微かに揺らめいて

冷たい
苦しい
ああ、この感覚はよく知っている。

嫌だ
嫌…だっ

助けて・・・!


目の前に手を延ばし、闇の中に触れた温もりを掴んだ。
縋るように、それをしっかり抱き寄せて…

「…起きた?」

はっと目を開けば、少し困ったように笑うジェイドがそこにいた。
床に横たわるジェイドの上にのしかかって、私は何をしていた…?
彼の上着ははだけていて、インナーの上から噛んだ跡が生々しく残っている。
…なのに、彼は私を突き放しもせず、ただ背を撫で微笑んでいる。

「大丈夫?怖い夢でも見たかい?」
「…あ」

優しく髪を撫で、額に口づける。

「わ…私は…」
「いいんだよ…俺でいいなら…受け止めてあげる」

ただ優しく…甘やかす声。
突き動かされた欲望はそんな彼を欲しいとざわめいた。


ぬくもりが欲しくて
ただ夢中で彼を抱きしめる。
そっとなでるその手は大きく優しく。

なぜか涙が出た。



「俺は機械だから、そんなに優しくしなくたって大丈夫だよ…」

哀しいほど優しげな微笑みでそう言って、君は私の背に腕を回す。

「ニクスの好きにして、いいから。乱暴に扱っても壊れないから」

そんな台詞聞きたくなくて、無理矢理に唇を塞いだ。
初めて触れた肌はしっとりと熱く、ほのかに甘い薫りが鼻孔をくすぐる。
こんなにも"人"なのに。
己を否定する君が哀しすぎる。


…ああ、どうしよう
こんなときなのに
自分の感情を知ることになろうとは


「私は、あなたがJDなのを知っていたけれど・・・あなたを機械のようだなどと思ったことは…ない」
「…ニクス」
「愛しています…それは、あなただからだ…あなたの存在が私を焦がす。人だ機械だなどとそんなことは関係なく…
・・・それに私とて、人でも・・・機械でもないですし」
「そんなことない!ニクスは人だよ!」
「ふふ、貴方は優しいですね。…しかし、現実には私は……そんな私でも愛してくれますか?」

君が、泣きそうな顔で私の唇を舐める。
ゆっくりと触れた舌は温かく、私の唇を湿らせた。

「俺は…ニクス、君のことが…メモリに蓄積されすぎて…放っておけなくて…知りたくて…」

苦しげな告白。
なんて情熱的な愛の暴露。

「君になら・・・君を癒やせるならこの身の全てをあげたいって…ああ、何故かはわからなくて…なんでなんだろう…っ…」
「それは、私を愛してくれているから?」
「わからない…」

けれど、と、一息置いて。
まるで太陽のようにまばゆい橙色の瞳が私を映す。

「これが愛するということならば…ニクスがそうだと言うなら…そうなんだね」

切なく微笑む、その顔は
まるで赦しを与える神のようで

「愛しています」
「・・・ニクス」
「愛して、いただけますか」
「・・・ああ、愛したい。永遠に、共にいさせて欲しい」


さあさあと雨が降る。
私たちを世界から隔離するように。

永遠ともとれる世界の監獄の中
こんなにも求めたことはなかった。
そして、こんな私を受け入れてくれた
私が生きてきた理由が
ここにあった



ただ、夢中になって求めあい
気付けば朝になっていた。






「見て、ニクス…虹だよ」

光より眩しい君の笑顔。

「本当に、美しい」
「窓は向こうだよ?」
「君が、美しいといったんです」
「ニクスも、とても綺麗だよ」

恥ずかしそうに頬を染めて、私に微笑み返す。
昨日より、ほんの少し近づいた貴方のかわいらしい仕草につい笑みが漏れてしまう。

手をそっと握って口元へと寄せた。
手のひらに口付けて、その柔らかな感触に幸せを感じる。

「そろそろ皆さんが戻られる時間です。お茶の準備をいたしましょう」
「あ、そうだね!じゃあスコーンを焼こうかな」
「それは楽しみですね。…隠し味を忘れないでくださいね?」
「隠し味?」
「私への愛情を、ね?」

笑みを浮かべ口づければ一瞬びっくりしたように目を丸くし、次の瞬間に、花が綻ぶように笑みを返す。
前に交わした会話を思い出したのだろう。
愛情を隠し味にしたら、どんな味がするか。
君の手から生まれるものに不味いものなど存在するはずがないのに。

「ああ!とびっきりのスコーンをニクスに作るよ」
「では私は貴方にとっておきの紅茶を」

悪戯っぽく微笑みあって、軽く口づける。

「ところで」
「なに?」
「何故、残ってくれたんですか?」
「…今日は雨になるのがわかってたから、ニクスのそばから離れてはいけないって、そう思って。
俺なんかがいたってなにも変わらないけれど…そばにいたかったんだ」
「そうだったんですか・・・ありがとうございます」

まさか、予知能力も備えているのですか?
そう思いながら、
歩みを揃えてキッチンへと向かったのだった。





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ネオアンに足突っ込んだよ記念(?)
なんとニクジェイです(笑
逆じゃないですよ、ニクジェイです(大事なことなので2回以下略)

もう、毎度ふぉもですみませんと土下座です
え?アンジェ?それっておいs(やめろ

マイナーなのはわかってるんだ・・・
同志、切実に求みます(号泣)