僕が入ってるギルドってさ、なんというかまったりで。
砦なんてとんでもないくらいにやるきなくて
狩りもみんなテンバラ。

だからさ、欲しくなっちゃったんだ。
僕だけの人っていうのが。


今日はめずらしくギルドの何人かでPT組んで狩りにきた。
…っていってもギル マスの弟くんのレベル上げが目的だけど。
アサシンクロスのギルマスがタゲとってるうしろで、商人になりたてのギルマスの 弟くん…藍留くんが土精を叩いてる。
横から沸いてくるカマキリをウィザードの 緋羽が焼いて、僕が支援と回復。
まったりやるのは好きだけどね。
緋羽はいつも青牙とペアでどっかいってるし、ギルマスは昼行灯。
ようやく動け ば弟くんの手伝い。
なーんかやんなっちゃう。

ふと横を見るとアコライトが一人黙々と土精と戦っていた。
アコライトでソロここってちょっとすごいな…転職間近かな?
モンク志望なのかスタナーを振るその動きは機敏で強そう。
無造作に伸びた銀色の髪が風に舞うその姿は雄々しく美しくて、

気まぐれに支援 を送ってみたくなっちゃったり。

叩き終わって汗を拭う彼にヒールをポンと放る。
キョロキョロとあたりを見回している彼に速度増加。
あ、目があった。
ブレスを 送る僕に真面目そうな顔をして一礼してきた。
なんか可愛い。
おまけにキリエと イムポを送って手を振った。
もう一度ぺこりとお辞儀をして、アコライト君は崖下へと入っていってしまった 。
なんかいいなーあーいうこ。

「やっべ」
「おわっ…ちょったんま!」

突然慌ただしくなったうしろを振り返るとどこから沸いたのか大量のカマキリが 辺りを囲んでいた。

「なにこのモテぶり」
「るせぇ!地味に痛えんだ!いいから早く支援しろっ」
「藍くんはちょっと避けててね」

おろおろする弟くんに笑顔を見せて、僕は右手を掲げた。

「ん〜・・・ブレス!速度増加!キリエエイソン!エンジェラス!マグニと〜イムポに〜レ ックスエーテルナーもつけちゃえ!」
「シロちゃん太っ腹!」
「ヒールもやれっ」
「んなこというギルマスには赤ボータなるまで支援なし!うーん、炎本持ってく ればよかったなあ」

ギャーギャー言いながらあっという間にドロップの山を築いてゆく。
やればできるこたちだからね。

「ったく、アイルのための狩りなのに俺達が頑張ってどうすんだ」
「ギルマスはたまには動かなきゃダメだよ」
「うるせ」
「レベルどう?あがって る?」
「はい、ありがとうございます」
「ねーお腹すいたー」
「じゃあ今日はこんくらいでお開きにしますか」
「んじゃギルドハウスにポタ出すよ〜」

ポタにみんなを押し込んでふと見回すとアコライトの彼がまだ頑張っていた。
ちょっと考えてポタを閉じる。
彼に手を翳してもう一度、僕が持てるかぎりの支援を送った。
ペコリとお辞儀とエモを出す彼に手を降って、テレポでギルドハウスに飛んだ。



「あの子、よかったなあ…」
「なに?まだこないだ見たアコ君のこといってるの?」

ギルドハウスのリビングで頬杖をつく僕に緋羽がアイスココアを出してくれる。

「だってさ〜なんかかっこよくなかった?」

そう言うと緋羽は驚いた顔で僕を見た。
「…なに」
「いや、シロちゃんがそんな風に言うなんて意外だなって思って」
「そう?」

首を傾げる僕に緋羽はブンブンとこれでもかというくらいに首を縦に振り、にっ こりと笑う。

「よっぽど欲しかったんだね、そのアコ君」
「欲しかったって…彼は人だよ?」
「人だって欲しいなって思うよ。その人が自分のものならいいのにって…」

少し切なそうに目を細めて、緋羽は笑った。

「…ねえ、アマツいかない?」
「…唐突になにそれ」
「桜見たくなったの。おべ んともってさ。ポタあるでしょ」
「…まあね」
「んじゃ暇人集めていこ」

…そうして招集かけた結果、ギルドのメンバー全員で行くことになってしまった 。

「弁当もって花見だなんて洒落たこと考えるね」

LKの桃子さんが長い黒髪を払 って笑った。

「アイくんとイチくんが作ってくださったそうですわ」
「それは期待せずにはい られないねぇ」

ハンターの氷色さんがそういう。彼女の言葉に僕もうなづいた。

「そんな褒めてもなにもでねぇぞ」

むすっとしながら頬を染めるのはローグの壱 黄。
彼と藍留はギルドで12を争うほど料理がうまい。

「…ふぁ…」

相変わらずだるそうにギルマスが歩くうしろを本当に楽しそうに緋 羽が青牙の裾を握っていた。


なんというか、もう、この面子でいると冒険者って十人十色、って実感しちゃうね。

「キャアッ」

弁当を食い終わってまったりしていた僕らの耳に、女性の叫び声が響いた。
見ると後ろで咆哮を上げながらモンスタ−が暴れ回っていた。
奥でうつろな顔をした男が折れた枝を持っている。
…こんなところでテロだなんて、おもしろくないことするなあ…

「ざけんじゃないわよ」
「…いくぜ」

わあわあとそばにいた冒険者たちが戦闘体制を取る中、僕が構えるより早く、黒 い影が舞った。
ギルマスと桃子さんがモンスターに飛び掛かっていったのだ。

「「速度増加!ブレッシング」」

ギルマスに標的をあてた僕の隣で青牙くんが桃 子さんに支援する。

「…俺もいくから」
「了解っ」

気功を身に纏い、青牙くんも駆け出してゆく。

「炎よ、妨げの壁になり邪なるものを焼き払え!ファイヤーウォールっ」
「…ミスト、いきますわよ!ブリッツビート!」

みんなが戦闘体制に入るのを見て僕も手をかかげた。

「光の守護よ、力を抑え、刃を弾け…キリエエイソン!」


レベルが低い藍留と壱黄は避難して怪我した人々の介抱をしているのが横目に見えた。
その場にいる人々が力を合わせ、目の前のモンスターを倒してゆく。
ヒュッ。
背後から人影が舞った。
支援をしようと手を掲げ、その姿を見て一瞬時が止まった。
無造作に伸ばした銀髪が風に舞う。
スタナーを握ったプリースト…。

「…っ、ブレッシング!風よ集え速さをその身に…速度増加!我願うは彼の者の 力、手に持つは武器、心の力をその身に宿せ…イムポシティオマス! 女神の援護により邪なものに鉄槌を!レックスエーテルナー!」

スタナーを振り下ろす彼に支援を、彼が殴るモンスターにレックスエーテルナを かける。
ボロリと崩れたモンスターにプリーストが小さくため息をついた。

見ると辺りもほぼ鎮圧したようだった。

「女神の御手に、癒しよ我が元へ舞い降りよ…」

光の絨毯が舞広がり、傷ついた人々が集まってくる。

「お疲れ様〜」
「あーったく、ダリぃことさせやがって」

どかりと僕のとなりに腰掛けてギルマスがため息をつく。
僕はきょろきょろとあたりを見回した。 少し離れた桜の下。
あのアコライトがプリースト姿で座っている。
肩についた傷をヒールしている姿は一匹狼を連想させた。
手を掲げて彼にヒールを送る。
僕を見て、小さく会釈を返してきた彼に、どうしようもなく愛しさが込み上げて きた。

「その人が自分のものならいいのにって…」

緋羽の言葉が頭の中に響く。
その場にいた人々が回復し礼を言って去ったのを見計らい彼の元へと足を進めた 。

「お疲れ様」

声をかけるとプリーストは驚いた表情を一瞬浮かべた。

「…オツです」

耳に柔らかく響く低音。 胸がどきりと高鳴った。

「…一人?」

うなづく彼に、僕は意を決して言葉を紡いだ。

「…ねえ、僕の相方にならない?」
「…は!?」
「駄目?」
「いや、駄目とかそういうんじゃなく…」

困った表情のまま、彼は僕を見上げた。

「…どこかでお会いしました?」
「うーん、辻程度に」
「…」

プリーストくんは 呆れた表情で俺を見る。

「…プリーストっていっても、俺、殴りですよ」
「知ってる、さっき見てたもん」
「…壁になるには脆いし」
「そんなの期待してないよ」
「…」

うう、と唸って彼は僕をもう一度見上げた。
子犬みたい。かわいい。

「…俺、あんたのこと知らないし」
「僕はシロウ。支援メインのハイプリースト。Int>Dex型で、もうすぐレベル75」

手を差し出すと困った表情のまま、彼は掌を見つめた。

「…知らなくて嫌っていうなら、知ってほしいな、僕のこと」
「…っ」

はあ、と小さくため息をついて、プリーストは僕の手を握りかえしてきた。

「…クロム、Agi重視の殴りプリ…レベルは82」
「クロム…よろしくねクロくん」

小さくつぶやく彼にニッコリと笑い、握った手に力を込める。

「……なんで俺なんかに」
「気に入ったからかな」
「シロちゃーん、そろそろ…あれ?知り合い?」

緋羽が駆け寄ってきてクロムを 見上げる。
「いまナンパしたの」
「…へぇ…え!?」

きょとんとする緋羽を指差 してクロムくんに笑いかける。

「これね、うちねギルドのメンバー。…ギルドもはいっちゃう?」

慌てて首を降 るクロくんにちょっとほっとしたり。
僕だけのものにしたいんだもん。なんて、 であったばかりでおかしいかな。

「…俺は、あんただけでいいよ」
「…もークロくん情熱的!」
「…?!そ、そういうつもりで言ったんじゃ…っ」

顔を赤くするクロくんのかわいらしさにメロメロになりつつ、PT名を書いた腕 章を手渡した。

「こんなPT名はいかがでしょ?」
「…BlackWhite?」
「そ。クロくんでBlack僕がシロウだからWhite…どう?」

なるほど。とうなづく彼の向こう、ギルマスがそろそろいくぞと手を上げた。

「はーい、あ、ちょっと待っててね」

クロくんにそう伝えてみんなの元へと駆け寄る。

「ギルマス、僕残るから」
「は?」
「…らじゃ」
「夕飯には帰ってくる?」

三者三様の答えに笑ってポータブルを開く。

「んじゃな」
「サンキュ」
「またね」
「お疲れ様ですわ」
「バイ」
「…オツです」
「ノシ」

みんなを送って、振り返る。
困惑した表情の彼に笑いかけた。

「手形持ってる?」
「…一応」
「んじゃおためしに畳いってみよか」

こくりとうなづいて、クロくんは僕を見下ろした。

「…ブレスと速度とヒールはあるから」
最低限は自分でやる。 瞳がそう言っている気がした。
「了解」





こうして、僕らの旅ははじまったのだった。






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クロシロ出会い編。