出会うのは 必然。



「今日はここまで」
「ありがとうございました!」

プロンテラ西の原っぱで、頭を下げた。
目の前で師匠であるチャンピオンの蒼琉が礼をかえす。

「もう少しで連続掌マスターできそうだね」
「早く師匠みたいに4桁出してみたいな」

拳をぐっと握って師匠を見ると、鍛錬中の厳しい顔がうそのような優しい笑顔が返ってきた。

「すぐにできるようになるさ。さて、今日はこの後いつものところ?」
「特に予定ないんでそのつもりですけど」
「そっか…ちょっとたのまれごと、受けてくれないかな?」


Cross+Road

2:スカイとアクアの場合



   *Side to スカイ

「これをね、アルデバランに届けてほしいんだ」
「あるでばらん?」

師匠の部屋でお茶をもらいながら俺は繰り返した。
確かルーンミッドガルドとシュバルツバルドの国境。
時計台とカプラ本社があるっていうのは聞いたことあるけど…

「そこにアルケミストギルドがあるんだよ」

アルケミストっていうと、あの、ポーション作ったりホムンクルスとかいうペットみたいなやつ連れてる…
そう思い出して手をたたいた。

「確か師匠の同居人のひと、クリエイターでしたよね」

アルケミストが転職することのできる上位二次職…
師匠を見ると、嬉しそうにうなづいている。

「そのクリエイター…ヴェルドっていうんだけど、いまアルケミストギルドにいっててさ、これ、渡してきてほしいんだ」
「本?」
「そう。必要なんだってさ」
「師匠は?」
「俺、いまちょっとあいつに会えないんだよね」

困ったように笑って、師匠は頭を掻いた。
師匠の表情がいつも見ているそれと全然違って、何故か理由を聞いてはいけないような気がした。

「…わかった、そのベルドってひとにこれ渡せばいいんだよな」
「ヴェルド、だよ。ギルドには一応連絡入れとくから」

よろしくねと笑って、師匠はポータルを開いた。









   *Side to アクア



アルデバランの地下。
数室ある研究室の中のひとつに私は籍を置いていた。
毎日毎日、試験管とにらめっこの生活。
楽しくないとまわりの研究員はぼやくが、
私はこの生活が嫌いではなかった。

…人と触れ合うことがなくて、気楽なものだったから。




「あんたここの人?」

受付員に書類を渡すために一階へ上がっていた私の腕を不意に誰かがつかんだ。
ふりかえって最初に見えたのは空を切り取ったような青い髪。
そして闇夜を吸い取ったようなおおきな瞳。
モンクの法衣から覗く素肌はたくましく鍛えられている。

ついまじまじと見つめてしまった私に青年はにっこりと笑いかけた。

「…あ、あの…?」
「あのさ、ヴェルドっていうクリエイターがここにいるって聞いたんだけど…知らない?」
「ヴェルド…?」
「あ、彼なら地下の研究室にいるわよ」

私たちの姿を見ていた受付員のお姉さんがそう教えてくれる。

「地下?」
「ヴェルドさんは外員だから、大研究室ね」
「大研究室」
「…ご案内、しましょうか?」

いつもの私ならば干渉を避けてそのまま立ち去っていただろう。
なのに…何故かすんなりとそう申し出れた。
青年は喜んでうなづき、私のマントの後ろを軽くつかんでついてくる。

ヴェルドという人は友人の教授と数日前から研究室に篭っている。
アルケミストギルドには私たちのように研究室へ籍を置くものとほかの冒険者のように外で生活をしているいわゆる外員がいる。
外員の人が機材等の関係でギルドの研究室を利用するときには設備の一番整っている大研究所を解放していた。

ヴェルドさんは一度見たことがあるが背の高い人で戦闘型だというのを頷かせるような
細身のわりにしっかりと筋肉のついたかっこいい人だった。
…その彼とこの人との関係はなんなのだろうとチラリと振り返ると、彼はじっと私を見ていた。

「…あ、の」
「あ、ごめん」
「いえ…なんのご用で?」
「あ、師匠に頼まれて。これをね、届けにきたんだ」

そういって見せてくれたのは薬事理論の本。
そういえばヴェルドさんは戦闘型なのに製薬やホムンクルス学のほうにも手を出しているって聞いたことはある。

「…そうですか」

…ただのお使い。

何故かほっとした自分の胸に首をかしげながら、奥にある扉を指す。


「こちらです。…失礼します、ヴェルド様いらっしゃいますか?」

ノックをすると中から返事があった。
彼にどうぞと手で示すと何故かその手を掴まれた。

「本当にありがとう。俺はスカイ。あんたは?」
「…アクア」
「アクアか…いい名だ。じゃあ、またあとで」

握っていた手を離して、スカイは扉の中へ入っていった。





その日からスカイは毎日のように遊びにきてくれるようになっていた。
毎日単調な生活の私に比べて、スカイは色々やっているらしくいろんなことを話してくれる。そのどれもが魅力的で面白い話…
隣で笑っていてくれるスカイ。

…どうして、私なんかにこんなに優しくしてくれるんだろう。
そう考えると何故か胸が締め付けられるように痛くなった。







ある日、手違いか魔術学校の器材がアルケミストギルドに届いていた。

「いま魔術学校に問い合わせたら今日届くはずの試験管届いてないって」
「んじゃやっぱこれ、向こうのやつか」
「だれか暇な人、ゲフェンまでいってくれない?」

たまたま騒ぎのそばを通りかかっただけだったのだが。
…スカイのおせっかいが移ってしまったらしい。

「…私が、いきましょうか」

「アクア!頼める?」
「今日は観察しなきゃいけない培養もありませんし」
「助かるわ!」

こうして私はゲフェンまでそれを届けることになった。

「終わったらwisだけちょうだいね」
「はい」


ギルドのあるアルデバランから魔術学校のあるゲフェンまでは随分距離がある。
カプラサービスを利用して降り立ったゲフェンは昔の町並みが残っている…どこか懐かしい匂いのする町だった。


「わざわざごめんなさいね」

魔術学校の人のお礼を言われて、少しいいことをした気分で街を歩く。
そういえば案内員さんにwisしなきゃ。
…そろそろスカイが来る時間だから、私がいないということも伝言しておいてもらおう。
名前を入力して、wisを飛ばす。

”ああ、アクア?”
「はい。いま終わりまし…」

言いかけて、ふと見えた後姿にまさかと目を疑った。


”無事渡せた?”


案内員さんの声が遠くに聞こえる。

いや、よく似た格好の人なんてたくさんいる。
モンクって職業もそんな少ないわけじゃない。

でも。

”アクア?”
「…あ、すみません。いま終わりました。無事に渡せました」
”そう、よかった”
「あ…で、スカイに・・・」
”ああ、スカイならまだきてないわね…なにか伝える?”
「…・・・いえ、いいです」
”そう?”


wisを切って、目が離せないでいる彼に近づいた。
見えないところでそっと会話を伺う。


彼は数人の友達のような人たちと仲良く話をしていた。


「そろそろいこうかな。ロン、ポタ頼むよ」
「アルデバランだったよな」
「うん」
「…いいかげん、何しにいっているのか教えないか」
「ひみつ」
「…危ないことしてんのか?」
「全然!でも秘密なんだ」

それは間違いなくスカイだった。
彼は困ったように笑い、ロンといわれたプリーストが開いたワープポータルに乗って消えてしまった。

「…いっちゃった」
「実際のところ、毎日なにしにいってるんだと思う?」
「さあ…クエかなにかじゃないか?」
「んだったら僕らになにもいわないなんておかしいだろ」
「…罰ゲームかしら?」
「は?」
「なにもいえないなんておかしいじゃない?だから…罰ゲームでなにかさせられてるとか」
「なにかってなんだよ」
「そうねえ…誰かを落として来い!とか」
「そんなのあのスカイにやらせることかよ」
「…スカイはお前とは違うよ」
「なによそれ!酷い言い草じゃないの!!」



ショックだった。

私に会いに来ることはほかの人には言えないことなんだ。
そして、あのローグの人が言っていたことがもし真実なら。
私は、ただからからかわれているだけ…?



どうやって戻ったのか覚えていない。

気づけば自室でベッドに横たわっていた。






いつの間に帰ってきたんだろう。
…なんで、泣いてるんだろう。
目が痛い。
起き上がって、首を降る。

なに勝手に傷ついて…


私…傷ついてるんだ。
なんで?

涙が、痛む瞳から勝手に零れ落ちる。



コンコンッ


軽やかに叩かれる扉。
誰とも会いたくなくて、ベッドに横になった。



「アクア〜?いねぇの?」

いま一番聞きたくない人の声が、扉の向こうから聞こえる。
…会えない。会いたくない。
ぎゅっと瞳を閉じて、布団を目深に被った。

カチャリ、と扉が開く音がする。

「なんだ、いるんじゃん。…寝てんの?」

影が、私の上に覆いかぶさってくる。




「…アクア、泣いてんの?」

驚いたようにそう囁く声が、肩ごしにあまりに近くて。
思わずその身体を押し退けていた。
滲む視界の向こう、スカイが目を丸くして尻餅をついてる。

「アクア?」
「…っ、スカ・・・イッ」
「…どうしたんだ?なにかあったのか?」
「・・・・・っ・なん…アル・デ…ゲフェ…私を…っ」

なんでアルデバランにきているの?
ゲフェンにいたのはあなた?
あの人たちは誰?
私を何だと思っているのですか?

言いたいことは山ほどあるのに口が固まって言葉にならない。
思わずえづいて崩れた私を、スカイの手がそっと支えてくれた。
あたたかく、大きな手。

「…っはなし……てっ」
「…なんで俺がゲフェンから通ってるって知ってんの?言ったっけ?」

首を振って、唇を噛む。
なんで私の言っていることがわかるんだろう。

「…昨日、ゲフェ…で…」
「…昨日?ゲフェンきてたのか。wizくれたら入れ違いにならなかったのに」

…そういえば、昨日戻ってきたときに受付員さんがスカイがきたけど私がいないことを伝えたら帰ったって言ってた気がする。
あいまいな記憶につい眉間にしわがよった。

「…で?なんでそんな怒ってんの?」

あくまで優しく、私を見下ろしてスカイは尋ねてくる。

「…そんな、遠くから…なんで…仲間にも言わないで…私を、からかってるの…?」

もう、言ってることが支離滅裂だ。
スカイを見上げると顔を真っ赤にして私から視線を反らせている。

「…あー…のな?あれはPTメンバーで…会わせたくなかったのは…」
「やっぱり…会わせたくなかったんだ」
「そういうことじゃなくて…っ…」

赤くなった顔を尚更染めて、スカイは私の肩を抱いた。

「…みんなに会わせて、恋敵増やしたくなかったんだよ」

照れたような、すねたようなそんな声色で、スカイがつぶやく。
なにを言ってるのか理解できずにいる私をぎゅうぎゅうと抱きしめて、スカイは小さくため息をついた。




「…好きなんだもん、アクアのこと」


消え入りそうな程小さな声が、私の耳をくすぐる。

「…え?」
「…だから…」

恥ずかしそうにつぶやいて、身体が離れる。
夜空のように澄んだ黒い瞳が私を見つめた。

「…好き、なんだ…アクアのこと」
「…っ」

真剣な視線と言葉。…スカイの顔がよく見えない。

「…なんで泣くんだよぉ」
「…っだって…うれし、くて…っ」
「…アクア」
「私も・・・スカイの…こと…っ」
「…アクア」
「…スカイ…っ」










  *Side to スカイ



『…で?』
『なにが で?だ』
『…あたしにそんな惚気をきかせるためにわざわざほかのに聞こえないように耳打ちしてるわけじゃないんでしょ?』

確かにそうなんだけど。
俺は本題に入ろうと座りなおした。
ロンとナイツが後ろでなにを話してるんだろうという視線を送ってきている。

『で、アクアと両思いになったわけで…そうするとさ、こう…もっと近づきたいと思うだろ?』
『…まあね』
『でさ…すっごく痛かったんだよ』
『…は?』
『だからさ…』

俺の言わんとすることがわかったのか、レンはにやにやと口元に笑みを浮かべた。

『…ああ、それであたしなわけね』
『…レン、得意なんだろ?』
『まあね…にしたって、あんた…無理やり突っ込めば痛いに決まってるじゃないの』
『やっぱり?』
『そうよ。そういうところは男も女もおんなじ。ちゃんと誠意を持って愛撫してあげないと』
『…うん』
『あんたのそれはいわば凶器なのよ?どんなに丁寧に扱ったって相手を傷つけちゃうの』
『…ん?』
『それでも、きもちよくさせてあげるには…』
『あ、まったまった!!』

レンの言葉に、つい首を傾げてしまう。
…なにかくい違ってるような。
『なによ』
『あ、ごめん、レン…違うんだ』
『何が違うのよ』
『…俺が、痛かったんだ』
『…だから、無理やり突っ込んで、きつくて痛かったんでしょ?』
『じゃなくて…・・・』


恥ずかしすぎて言葉が出てこない。
真っ赤になってしまった俺を見て、レンは眉間にしわを寄せた。

少し小首をかしげ、理解したのか大きく手をたたく。
そしてどっから出てるんだと思うほど大きな声で笑って俺を指差した。


「あんたが掘られちゃったの!?」
「ちょ・・・レン!?声でかいって!!しかもオープンになってんじゃん!!」
「やっだーあっはっはっはははははは」

ゲラゲラと笑いまくるレンに顔から火がでそうだった。
実際出てたかもしれない。
ロンとナイツがぎょっとしながら俺たちを見ている。
せめてもの救いは誰もそばを通ってなかったことだった。

馬鹿みたいに笑い転げるレンを見て、相談したことを後悔しつつ、
俺は目の前のジュースを飲み干した。







********************************


はい。ということでスカイとアクアの出会いでした。
当初はモンク×アルケミのつもりだったんです
(逆は蒼たちでやってるし)
それがなんでかこうなった(笑
たぶん、レンのせい(爆笑


おまけ会話**


「にしてもあんたがネコってどんなアルケミなのよ」
「ネコ?」
「まあ、なんにしろあたしタチだから…ネコやったことないのよね」
「タチ?」
「受け攻めってことよ」
「はあ?



あとおっさん組(ヒドイ)がどうして自分らで会わなかったのか。
それはまた別のお話。ということで(汗笑