あれはいつのことだったろう。
高校のときに仲良くなった僕ら。
スパナは毎年、大会の一ヶ月くらい前から来日して3ヶ月ほど日本のマンションに滞在していた。
すごくお金持ちなのかな、なんて漠然と思ったけど
「ウチはジッリョネロってファミリーにいるんだ」って言ってたから
ジッリョネロさんって人のおうちにお世話になってるのは知ってたし
一緒に来る女の人や金髪のお兄さんは、気さくな人だったからあまり気にしていなかった。

その日も部屋に遊びに行くと、ちょうど金髪のお兄さん・・・γさんというらしい・・・が迎えてくれて、
「ヨウ坊主、あいつなら部屋にいるぜ。俺はいまから出かけなきゃなんねえからルスたのむって伝えてくれな」
って言って、僕と入れ違いに出て行った。

Per la prima volta 



スパナの部屋はマンションの一室にしてはだいぶ広いのに
そこにはこれでもかというように、機械やら部品がごちゃごちゃと散らかっていて
空いてる空間はいま彼が椅子代わりに腰掛けているベッドくらい?って感じだった。
まあ、僕の部屋も書類や出力した用紙で溢れてるし・・・人のことは言えない。

本人は全く気にならないんだよね、こーいうときはさ。

現にスパナは楽しそうにガチャガチャ音を立て、
落ちたガラクタを器用に拾い集めて大きなマシンに変えてゆく。

全く、相変わらずすごい応用力だなぁ。

にしてもこれだけの部品、どこから持ってくるんだろ…


ゴトン。


ふと足元に転がったものが目に入って目を見張った。
…それは、この部屋にはあまりにも不似合いなものだったから・・・


「スパナ」
「…ん……、あぁ正一。いらっしゃい」
「いらっしゃいじゃなくて…これ、何だよっ」

今拾い上げたガラクタをずいっと本人の鼻先に突き付けた。
スパナはいつも眠そうに半開きの目をパチリと瞬かせて、ソレと僕を交互に見る。

「ウチの作ったオモチャ」
「…つ、作ったって」
「ほしい?でもこれはダメだよ」

にいっと口を緩ませて細い指が僕の手からソレを奪い取った。

ソレってのは…つまり、男のアレを形どったソレだ。
スパナの言い分を使うなら大人のオモチャってやつ。

スパナは楽しそうに、グロデスクな程精巧に作られたソレを撫でる。

「すごいんだよ、ホラ」

そう笑いながらスイッチを入れればヴィンヴィンと音を立て、無茶苦茶な動きをはじめた。

確かに動きは滑らかで、機械として言うならすごい、けど…



じゃなくて。

スパナ、いま何て言った?
ウチの作った…?

てことは、誰かに使う予定があるのか?
  腹の奥がムカッとした。
それとも…まさか、自分用…?
  胸の奥がムラッとした。


思わず浮かんだ想像に、自分で自分を殴りたくなった。
僕の馬鹿。
スパナは男だってば…

「…正一?どうかしたか?」

いつの間にかすぐ近くまできていたスパナが、僕を覗きこんでくる。
垂れ気味だけどすっとした目モトは確かに艶めかしい…かもしれない。
肌も、外人さん特有の透き通った白さで…
あ、頬にかすり傷。実験のときにつけたのかな…?

「ウチの顔になにかついてるか?…飴、ほしい?」

舐めていた飴をずいっと寄越してくる。
指は機械いじってる手、ってかんじでゴツリとはしてるけど白くて長いし…スパナの指は、すごく綺麗で好きだ。
…いやいや、だから


「…正一?」

スパナが不思議そうに声をあげた。
いつの間にか、手をぎゅっと握りしめて、スパナをベッドに押し付けていた。
なにしてんだよ僕…っ!
スパナはきょとんとした顔をしたまま、僕を見下ろしている。
ちょっと何考えてるのかわかんない氷のように透き通った、彼のブルーグリーンの瞳が、僕を映していて・・・・

不意にチュ。とスパナが鼻先にキスをした。

「…なんか、エロいことする?」
「…なんでそう思ったの?」
「そんな顔してる」
「じゃあそうなのかもね」

機械油に混じる、スパナの体臭。
そんなので感じちゃった自分に気付いて。
なんか、色々ふっきれた。

噛み付くように触れた唇はひんやりとした肌と反して熱くって。
スパナの唇は、いつも舐めてる飴のせいか、ちょっとイチゴの味がした。

雰囲気に流されるまま、スパナのTシャツを脱がせてゆく。
去年の大会前に入れたという、白い首筋に浮かぶ刺青をそっと食んだ。
ひくりと震える身体が愛おしくて、夢中でそこにキスを落とす。

「…ぁ、正一」

突然スパナはなにかを思い出したように、首筋を啄んでいた僕の頬を掴んで自分のほうを向かせた。

「なに?眼鏡痛かった?」
「…違う。東はどっち?」
「へ?」

突然何を言うんだろう。
確か窓が南向きなんだから…と窓の左側にある壁を見る。

「あっちかな?」
「そう…じゃあそのまま…」

首をそっちに向かせたままの僕の唇をぐにっと伸ばした。

「…っ!ちょっ…スパナ!?」
「笑って」
「は?」
「いいから」

いつも思うけど、説明が足りないし突然すぎる。
多少困惑しながらも、仕方なく口元をにいっと笑みに形作ってみた。

「…これでいい?」
「ん、ジョーデキ」

ふふっ、と悪戯げに笑って、
スパナは僕の首に腕を絡ませた。




言っちゃ悪いけど
僕は、そういうことって全部初めてで。
仕方ないだろ?女の子と話するよりも音楽聴いたり機械いじってるほうが楽しいんだから。
・・・しかも僕ら男同士・・・
どうするのかなんて、まったく知らなかったわけじゃないけど・・・
でも、所詮は聞いたことあるくらいの知識しかなかったんだよ。
まさか本当にあんなところにあんな・・・・・
・・・だから、もう、夢中で。
目が覚めて、隣にあったぬくもりが、こんなに心地いいなんて知らなくて。


「オハヨウ、正一」
すこしだるそうにスパナが僕のこと見てて
その姿がすごく、色っぽくて、馬鹿みたいに赤面してしまった。

僕はシャツ着てたけど、スパナは本当に全裸で
さっき僕が夢中で吸ったり噛んだりしたところがところどころ赤くなっていた。

「ごめん」
「なんで謝るんだ?」
「だって・・・赤くなっちゃってるし・・・無茶させたし・・・」

僕の言葉にスパナはちいさく首をかしげて、僕の首あたりを見た。

「無茶なんてしてないから大丈夫だ。それに赤いのはお互い様」
「え?・・・ああ!」

僕の首にはくっきりと歯形が残っていた。

「ムチュウだったから、噛んだらしい」

にやぁ、と意味深に微笑んで僕のパンツとズボンを放り投げる。
そして履こうとする僕の手を阻止するように掴んで、自分は裸のまま部屋を出ようとする。

「ちょっ!スパナ!?服!!!」
「ん、シャワー浴びたらね」

意味深に口元を弧に歪めるスパナに、ほんの少し前の艶事を思い出して慌てた。

汗とか、アレとかをシャワーで洗い流して、ついでに水の掛け合いして遊びつかれて出てくると、
出かけていたγさんが帰っていた。

「またお前ら機械いじりしてたのか?」

よく機械油まみれになって二人でシャワー室に飛び込んでいるのを見られていたから
二人で出てきても何も思われなかったようだった。

水気の残る頭を拭きながら、スパナが首をかしげる。

「あ、そうだγ。さっき発掘した」
「あん?」
「ちょっと待ってろ」

ペタペタと廊下を歩く音が部屋に消えた。
γさんはちらっと僕を見て一瞬驚いたように瞬きをし、ふっと視線をにやりと歪めた。

「若いってのはいいねえ」
「は?」

「コレ。こんなんでいいんだろ?」

部屋から戻ってきたスパナは紙袋を持っていた。
受け取ったγさんは中を覗き込んで目を点にする。
なんだろう?
・・・気になる、って表情に出たのか、γさんが変な笑顔をつくる。

「気になんのかい?」

と言って、手にしていた紙袋を見せた。

「あんたにはコレはちょっと早いかもしれねぇがな」

にやにやと下卑た笑いを浮かべながら、中身を見せてくれた。

コレ。と見せられたものは非常に見た覚えがあった。
アレだ。スパナの部屋にあった、あのオモチャ。

「流石だな、画像と説明でこんなスゲェもん作っちまいやがるんだからよぉ」

確かに自分が作ったって言ってたけど。

「一応言っておくが俺が使うんじゃないぜ?太猿のアホが頼んだんだからな。…にしても笑っちまうぜ?こいつ、構造はわかったけどなんに使うんだ?なんていいやがった」

ゲラゲラと笑って、スパナの肩をばしんと叩く。
スパナは嫌そうに眉間に皺を寄せてγさんを見上げた。

「オモチャ、なんだろ?」
「まあな」

・・・・・なんだ、頼まれただけで、ただ作っただけなのか。
これで言ったことが理解できた。
確かに『ウチが作ったオモチャ』か…。
間違ってはないけど。

だったら、あの行動はなんだったんだろ?

…あれ?
なんか、覚えがあるような…

もしかして。



「…ねえ、スパナ…東を見て笑うって…もしかして」

部屋に戻って、開口一番、スパナに問い掛ける。
まさか、そんな迷信じみた…
でも、スパナだし、もしかしたら…

「なんで聞く?」
「そりゃ・・・知りたいから・・・かな」

ふぅん、と小さく返事をして、くるりとこっちを見た。
髪からシャンプーの桜の香りがふわりと漂ってくる。

「確かジャッポーネのマジナイだろ?」
「日本の…」

なんかすごく嫌な予感がした。それってもしかして。

「ハツモノを食うときにするんだって」
「は」
「初物だよ。ジャポネーゼは季節ごとに取れる初めてのものをそう呼ぶんだ」

それは知ってる。曲がりなりにも僕も日本人だからね…
・・・やっぱりそうだったんだ。
初物食いには東を向いて笑う。
昔ばあちゃんに聞いた記憶があったんだ。

じゃなくってさ。
ということは、さぁ?

あのとき、僕は何をしようとしてた?


「初物…」
「うん、ウチが初物」

平然と自分を指差す。

「あのねぇ」
「ん?」
「そーいうことは、さぁ…先にっ」
「なんで」

なんでじゃないでしょう…
僕だけ初めてなんだと思ったから夢中でなんかいろいろしちゃったし・・・
・・・いや、初めてって知ってても、どっちにしろ夢中でよくわかんなかったろうけど。

脱力を覚えながら、きょとんとしているスパナを見上げた。

「・・・初めてなら、もっと優しくしたかったよ…それに、僕も、初めてだったんだし・・・」
「充分優しかったよ。ウチすごく気持ちよかった」
「いや、あの」
「それに、正一なら…ウチ入れられてもいいやって思ったんだけど…」
「…っ」
「…あ、正一も初めてならウチもやらなきゃいけなかったな…」

至極当然といった表情を浮かべるスパナの口が、そんな殺し文句やら外れた意見やら飄々と発する。
全く、スパナには敵わない。

「…はぁ…」
「よし、今からでもやろう」
「やらなくていいよ…そのかわり・・・・・」
「・・・Accordo」

僕からの提案に、にこりと笑って

スパナは、ゆっくり僕に口づけた。






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携帯でUPしたときはミルフィでの話だったんですけど
初なら学生のほうが(笑)と思って書き直しました
いろいろ捏造なのはご愛嬌ってことでwww
スパナのロボコン滞在ついでにマフィア側は日本でいろいろあるんですきっと。
γ兄さんはボスの護衛で来てるんです。
馬鹿みたいな補足ですが
γ兄さんはまだスパナのお友達の少年が入江正一というなまえなのを覚えていません。
ショウイチとだけ覚えています。
大人になってミルフィで「入江って名前のいけすかねえジャッポーネ」
が、「スパナの友達の高校生ショウイチ」だとは思ってません。
正一は、多分覚えてます。でも向こうは覚えてないし自分の立場上なにも言いません。
・・・なんだこのγ正的設定wwww
うちは正スパを応援しておりますよ(真顔