うちの学校はお笑いに命かけとる言うても過言やない。

行事のほとんどがお笑いに関するもんがええ証拠や。



で、今日もそんな行事の一つなんやけど



まるごと水着☆食い倒れ大会




「水着の意味がわからへん」

ムッとしたままそう呟くのは隣に立つ白石。
確かにわからん。
今日はまるごと水着食い倒れ大会なんちゅう変な名前の
ようするに早食い大会。

確かになんで水着なんかわからん。
しかも出場男子だけやねん。
普通こーいうんは女子の水着でドキッとするもんちゃうんか。

予想しとった通り小春が女子の水着着て笑いをかっさらっとったけど。


で、全校生徒参加のこの戦いも次が決勝や。
残った生徒は4人。
スピードスターな俺と、食い方までバイブルな白石。
あと、よぉ食いそうな柔道部のヤツと、
早食い研究部とやらの部長サン。
…ウチにそんな部があったなんてこと思いだすんはいつもこの大会や。
あ、もしかして主催なんやろか?

「さっきアイツにテニス部やめてうちに来てくれ言われたわ」

白石が早食い研究部のやつ指差しながらボソリと俺に耳打ちした。

「俺も言われたわ。なんで君がテニス部なんかわからん…やと」
「謙也はそれ陸上部にもいわれとるやん」
「俺ほどテニスが似合う男はおれへんのに、酷い話や」
「それ笑うとこやんな?」

ニヤニヤする白石の肩をおもいっきりはたいてやった。
どこにも笑う要素あらへんやんか!


壇上へ上がると女子からキャーいう黄色い声援が白石に向けて発射される。
白石はうんざりした顔のまま溜息をついた。

「せやから水着なんて嫌なんや」
「水着やなくてもキャーキャーいわれとるやろ?」
「アホ。いつもより水着分余計にうるさいねん」

女子に注目されんのが嫌やなんて、白石やなかったら半殺しな発言や。
羨ま…しくなんてあらへん…!
じろりと白石を見れば、きょとんと見返される。

そんな俺らを無視するかのように
目の前には美味そうな餅が並べられた。

ピザ10枚にはじまり、ホットドッグ1ダース・たこやき10舟・・・一日でこんなに摂取してええんやろうかってくらい炭水化物のオンパレードや。
もうぶっちゃけ腹ぽんぽこぽんやで。
極め付けに決勝戦はいままでの皿単位の早食いちゃうて時間いっぱいまで食いまくれやて。
それ早食いちゃうて大食いや。
白石がげんなりした顔で餅を見つけてる。

「…餅の早食いとか、詰まって死んだらどないすんねん」
「詰まったらそれはそれでおいしいってユウジが言っとったで」
「なるほどなあ…」





校長が、ゆっくりと司会席へと登る。
泣いても笑ってもこれでしまいや。

ほんの少し緊張感が会場をはしる。

ゆっくりとした動きで校長がマイクを持つ。



「よーい…ドン、いうたら食うんやで!」

ズコーッ!どたーん!ばきぃっ!!!!

全校生徒がズッコケる。
お約束をやり終えて校長は満足そうにうなづいた。

「エブリバデーあーりがーとさーん!!ほな、今度こそ本当のホンマにスタートや。よーい…ドン!」




++++++++++++++




「ホンマにテニス部強いなあ!」
「3-2圧勝やん」
「謙也のくせに生意気や!」
「痛い痛い!なんで優勝したんに殴られなあかんねん!」

大会終了後、クラスとテニス部のみんなに囲まれて頭バシバシ叩かれた。

結果は俺と白石でぶっちぎりのワンツーフィニッシュやった。
スピードスターは伊達やないっちゅう話や。

「惜しかったわねぇクラりんっ」
「あそこで海苔巻き直さなかったら勝てたで」

「いや、そんでも1皿差は無理や。謙也はホンマにスピードスターやで」

小春とユウジの言葉に歯に海苔つけたまま白石はにこっと笑った。

そんなツラでも男前。
なんやイケメンは凄いな。


感心している俺に、小春の視線が突き刺さる。
不思議そうなその視線は俺と白石に向けられていた。

「なんやねん」
「どないしたん?俺らの裸なんて部室で見慣れとるやろ?」

白石と二人、互いを見合い首を傾げる。

「いや、ね?確か謙也クンとクラりんって一皿差やったわよね?」
「おん、4切れ差っちゅうギリギリな」
「なのによ?謙也クンのお腹はポンポコリンなのにクラりん全然出てへんやんなあ思うて」

言われて見れば確かに、俺はメタボかっちゅうくらいにパンパンに膨れとるのに、白石はいつもどおり、綺麗に割れた腹筋がなだらかに隆起しとる。
今日散々食うてきたもんはどこいってもうたんや!?!?

「白石!手え抜きよったんか!?」
「ちゃうわ。俺、消化早いねん」
「はぁ!?」

思わず詰め寄る俺を軽くいなして、自分の腹と俺の腹を触診するみたいに軽く撫でた。

「ホレ、まだ謙也の腹、消化してますよって言うてないやん」
「言うてへんって…白石の腹は喋るんかいな」
「おん。ま、喋るやなくて鳴るっちゅうほうが正確やな。ホレ、まだ鳴ってる」

そう言うと俺の手を掴んで自分の腹に押し付けた。
ガチガチやないけど、プニプニでもない。程よく鍛えれた白石の腹は手触りがすごく良い…やなくって。

きゅ…くるる…きゅる…きゅるるっ

「…ホンマや鳴っとる」
「せやろ?あ、コラ耳つけんな。くすぐったいやん」

かわええ音が手に伝わってきて面白い。
思わず頭を近づけ、腹に耳を押し付けた。





腹に耳付けると音がよく聞こえた。
減ってるときに鳴るんより可愛らしいキュルキュルいう音や。

「面白いなあ!おっ!また鳴いた」
「そない喜んでくれて俺の腹も喜んどるわ」

俺の頭を撫でながら白石は笑った。

…と、周囲の視線がかわっていることに気づく。
さっきの賞賛の視線はすっかり消えて、なんや妙に生暖かいそれが俺と白石をつつんどる。

「な、なんやねん」
「どないしたん?」

白石の腹から耳を外して見上げれば、ひどく言いにくそうにユウジが視線を反らした。
ほかのやつらもおんなじような反応。
ほんまなんやねん???

「…あーなんつーか、アレみたいやん、なあ小春?」
「そうね〜…」

耳を赤くしたユウジとは対照的に
小春はまるで近所のおばちゃんみたいに頬に手を当てて、幸せそうに俺らを眺めてる。


「なん?はっきり言いや」

白石も気になるのか首を傾げて二人を見る。

「怒ったらあかんで?」
「なんやねん、早う言い?」
「・・・・子供ができた新婚さんみたいやんなあ?」
「「…はあ?」」
「白石ん腹に耳つけて…なあ?」
「そうそう。幸せ〜みたいな?」
「おん、似合いすぎやっちゅう話や」

小春の言葉を皮切りに口々にそう言われて恥ずかしさがこみあげる。

「そらひどい言い草や」

白石の言葉にそうや!とうなづく。
しかし続いた言葉は俺が考えとったもんとちゃうかった。

「妊婦さん言うなら謙也のほうやろ」
「そうそう…はぁ?!」
「ほれ見てみい、お腹ポンポコでめっちゃかわええし」
「いやいや!白石?怒るとこちゃうわ」
「なにがや、俺が旦那さんや間違ってへん」
「アホっ!」




「なんで白石クンはあない男前やのにああなんやろな」
「しゃーないわ、彼も立派にウチの学校の男子っちゅーことやん?」
「そやね…」

そんな俺達のやりとりを
白石にキャーキャーいわへんようになったクラスの女子が諦め半分で見とった。






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40.5読んだときから考えてたネタだったんですが
ペアプリで白石が準優勝ということで書いちまいました(笑)
ちなみにウチの友人が消化するときによく鳴る人なんですよね。
あたしはあんまり鳴らないなあ。