相手のことなど、自分以上に知り尽くしているのだ。
わからないはずなど、ないではないか。



DOUBLES



2人組を作ってください。
そういわれた。
ダブルスかと思ったのだ。

だから、迷いも無く組んだ。


その相手と
 シングルをしろといわれた。



俺は

私は



互いを見つめるしかできなかった。


Side 仁王



ぱあん!

大きな音がした。

夢中で追いかけた自分の目の前に鉄柱が見えた。
すんでのところでかわしたつもりだったが、
ものすごい音とともに足に痛みが走った。

音の割に皮膚にすこし色がついた程度だった。

これなら歩くくらいは支障がない。


しかし、テニスには…

柳生と離れるのは嫌じゃ。


でも、俺が残ればあいつは…


それならば。




足に大きな傷があるような偽メイクを瞬時に施す。

あいつにはわかるはず。

コノ傷は偽モノ。

そうすればあいつは本気でくる。
ペテンの下の真実には気づかず。
…むしろ怒るかもしれんの。

・・・・俺はお前のレーザーが最強じゃと思ったんじゃ。


だから、のぉ、柳生。

残って、強くなりんしゃい。




Side 柳生



大きな音がして、仁王君が倒れこむ。
その足に、大きな傷と赤く流れる血が遠目にもはっきりとわかる。
一瞬、目の前が真っ白になった。

仁王君が、怪我を・・・!?


しかし、彼の動向にすぐ違和感に気付く。

あの傷はフェイク。

…しかし仁王くん、私を誰だとお思いですか?
医者の息子であり、医学の道へ進もうという私です。
貴方のその足が傷のフェイクを抜きにしても
損傷を追っていることくらいお見通しです。
長いラリーに向かなくなっていることを
気付かないとでもお思いですか?

ええ、仕方の無い人です。
そんな姿で私をたばかるおつもりですか?

それならば。

私もそれに応えましょう。
紳士らしく振る回させていただきましょう。

・・・貴方のペテンの、その先へと。






パアン!


柳生が打つボールの音が、打球の行方を知らせる。
俺とは逆サイドへとボールは飛んだ。

・・・お前さんは阿呆じゃ。

痛む足を無理やり動かして逆サイドへと駆ける。

確信があった。

ボールは曲がる。
さっきまで俺がいた場所へ。
俺が走れないと知っている。

だからこそ




打ち込んで、彼が走り出したことに舌打ちする。
彼の考えを読んだように
私の考えも読まれているだろう。

ボールの軌跡も、彼ならばきっとわかっている。

なのに
走ったのだ。

それが答えだというように。


どうしても、私を残したいようですね。
   

   「アデュー」   


貴方には言いたくなかった
別れの台詞を口にした。










「・・・大丈夫ですか?」

差し出された手に素直に掴まって、仁王は小さく笑った。

「おんしはドコまでも紳士じゃの」
「貴方はどこまでも詐欺師ですね」

呆れたようにため息をついて、柳生は仁王の足を見る。

「で、痛みは?」
「・・・なんじゃ、気付いとったんか」
「当たり前でしょう」

くい、と眼鏡を押し上げて、そっと肩を貸し、二人で水場へと向かった。



ジャアアアアアアァァ…

勢いよく流れる水が、仁王の施したメイクを流してゆく。
素肌に痛々しい赤黒い痣。

「・・・酷いですね」
「大丈夫じゃ、見た目より痛くなか」
「そうですか?」
「それより、さっきのは本当なのか?」
「なんですか?」
「・・・俺が嘘つくとき・・・とか…」

少し困惑した表情の仁王に、小さく笑って
柳生はこくりとうなづいた。

「ほんの少しですから、私のように毎日一緒にいなければ気付かない程度ですよ」
「・・・お前さんを謀れなければ意味なか・・・」


笑っていた柳生が不意に真表情を硬くして仁王を見つめた。

「・・・ねえ、仁王くん」
「なんじゃ?」
「入れ替わりで・・・というのはいかがでしょう?」

妙に真顔になって何を言うのかと思えば。
仁王は小さくため息をついて柳生の顔に手を伸ばす。

むぎゅ。と鼻をつまんでやって、仁王は笑った。


「何するんですか!」
「柳生が変なこと言うからじゃ」

むっとする柳生に、口元の笑みを消して仁王はこっそりとため息をつく。
そして、ぽんと肩に手をおいて、彼にだけ聞こえるように小さく囁いた。



「…強くなってきんしゃい、柳生。俺は、そんな強くなったパートナーをコピーしちゃるけん」





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新テニ話。
やっぱりあのダブルス戦はなんというか違和感を感じたもので、自分的に補完を。
こんなんだったらいいなー・・・みたいな。