10月が近づくと彼を思い出す。

何でもできて、何でも無関心で、
大食らいで寝汚くて、歌だけは飛びきり下手で
なのに、気になって仕方なくて。

世話焼くとすごく嫌そうな顔するのに
焼かないとすぐに拗ねちゃうような…そんな奴。

大事な仲間。

戦いの最中は一緒に行動することは少なかったけど、
他愛ない日常の中、君の隣にいた気がする。


なんで今更、そんなことを思い出すんだろう。


10月の雨


伸は一人、電車に揺られながら窓の外を眺めていた。
会社帰りの人で車内は混み合っていたが、一人で物事を考えるにはちょうど良い空間が出来上がっていた。

ドアの横のスペースに寄りかかるように、窓に打ち付ける雨を見上げる。

とうとう降ってきちゃったな。

会社からの帰りにどんよりとした雲が天を覆うのを見上げて、降ってくれるなと祈っていたのだが、
流石の水滸も空のことまでは水を自由にできず、結果、電車の中で家までどう帰るか思案することになってしまった。



駅に着いたら、コンビニで傘買って帰るか。


そう思案しながら、伸はホームに降りた。
階段に向かう人の波に紛れて、改札を抜ける。
手近なコンビニに入ってみたが、突然の雨に皆考えることは一緒だったらしい。
傘は売り切れていた。


やっぱりね。


ため息をついて、雨足が強くなってきた中に一歩踏み出した。
たまにはぬれるのも悪くない。

むしろ自分は水に濡れるのは嫌いではないのだ。
でも、都会の雨はどことなく濁っていて、あまり気分が良くない。と思う。


10月の雨に、濡れながら歩いた。
枯れ葉色に染まる歩道切なさを重ねて
10月の雨が僕の心に降る。
同じ風で肩を寄せたあの日が蘇る。



帰ったら、シャワー浴びて、あったかいシチューでも作ろうかな。


そう思案して、ふと、また彼のことを思い出した。


そういえば、白いシチュー、大好きだったよな。
ご飯をシチュー皿に入れて食べるのがまた好きで、
はじめは行儀が悪い!って怒ってたんだけど…あれっておいしいんだよね。
いつのまにか僕もそうやって食べることに慣れちゃってたっけ。


ああ、なんでだろう。
今まで思い出しもしなかったのに。
今、僕の心の中には彼との思い出ばかりが浮かんでくる。
連絡する手段は山程あるのに、何故か連絡するのを憚っていた。


時が流れていつかはこの道も変わるだろう。
でも
君を好きだったことに変わりはない。



不意にポケットの中の携帯が震える。
画面を見ずに、受話ボタンを押し、耳に当てる。

「もしもし?」
『もしもし、伸か?』


ありえない。

今、考えてたせいで、幻聴でも聞こえてきたかな。

そう考えて、ディスプレイを覗き込む。


 羽柴当麻。

間違いない、当麻だ。
でも、なんで。

『おい、伸』
「おい、伸」

ほら、おかしいよ。携帯は僕の目の前にあるのに、声はすぐそばで聞こえるもの。

『お前ね、耳から外したら声が聞こえるはずないだろ』
「お前ね、耳から外したら声が聞こえるはずないだろ」

上から降ってくる声。
不意に頭に感じていた雨の雫が消えた。
代わりにパラパラ、と軽快な音が耳をくすぐった。

頭上を見上げると青い空。
…じゃない。青い傘。
そして傘よりも鮮やかな色をした、青い髪。
まるで澄み切った空のような、青い瞳に見下ろされて、僕は口を開けたまま
ぼんやりと彼を見上げ続けていた。

「なんで、傘差してないんだよ」
「…当麻」
「こんなに濡れて、風邪引くぞ」
「なんでここに?」
「マンション、場所変わってないよな?」

食い違う会話に、二人は目を見合わせて笑った。
そして、当麻は自分のジャケットを伸の肩にかけて引き寄せる。

「今日、日本に戻ってきたんだ。一番に伸の顔が見たくてここまできたってのに、お前、傘もささないでフラフラ歩いてるんだもんな」
「さっき降り出したから…傘売り切れてたし」

伸の言葉に、当麻は、そっか、という顔をして、しっとりと濡れた髪を撫でた。大きな手が気持ちいい。


10月の雨に、濡れながら歩いた。
枯れ葉色に染まる歩道足跡確かめて
10月の雨が僕の心に降る。
今も君をもしかしたら
好きなのかもしれない。



「暫く泊めて欲しいんだが、平気か?」
「暫く、なの?」
「…伸が平気なら、無期限でお願いしたいけど」
「仕事でまた遠くに行くなら嫌だよ?」
「それは平気」
「なら、ずっと…いて欲しいよ」

なんでかな。今日は素直にそう言える。
前は、意地張って言えなかった言葉なのに…

「ありがとう」

優しく笑って、当麻が屈む。
久しぶりの口づけは、淡く雨の匂いがした。


もしかしたらじゃなく、今でも、好き。
連絡しなかったのは、恋しくなるから。
もう、我慢しない。
もう、離れない。



「あー、腹減った!シチュー食べたくないか?」

…シチュー、ね。
同じことを考えていたことについ笑みが零れる。

「僕がシャワー浴びてから、ね」
「おう!ご飯は磨いでやるぜ?」
「わあ、嬉しいな」

前と変わらない掛け合いが嬉しい。

帰ったら、シャワーに入って、シチューを作ろう。
そして、ご飯にかけて、一緒に食べよう。
食べながら、今までのこと、いっぱい話そう。


「そういえば、誕生日おめでとう、当麻」
「覚えてたのか?」
「もちろん。…10月って言われて、つい思い出すことだからね」
「そっか…サンキュ」



10月の雨は君が運んできた。
水と空の協奏曲。



肩を寄せて、二人は同じ道を一歩づつ、歩き出した。






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元ネタは、WILDSTYLEの「10月の雨」って歌です。
もう解散しちゃってますが(…)
すごい好きな歌なんですよね。

なんか10月、ってタイムリーだなあと思いつつ。。。

というか、なんか当伸っぽいねこの話(…
……伸当ですから!!!!あしからず!!!!!(TAT)ノシ

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