13番目の扉



13番目の扉は開けてはいけないよ…

いにしえの伝承の中にあった言葉。


神の下に置かれた少女に仰せ遣わされた禁忌の扉の物語。



13番目の扉の中には…



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『おい!いい加減にしねぇか!』

バクラの言葉にはっと我に返り、僕は頭を上げた。

『かりかり机にしがみついて、なにをそんなに勉強しなきゃならねぇんだよ?』

バクラが上から覗き込んでそう言っている。

「僕の本業は学生なの。勉強するのが仕事なんだから当たり前でしょ?」
『ふん、頭でっかちのおぼっちゃんが』
「なんとでも言ってよ」

僕は立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。



『俺にも一口』

ごくりと飲む僕を見つめ、肩に手を掛ける。

     ドン☆

慣れた風に僕の意識を乗っ取り、バクラは手にある水を飲み干した。


「全部飲んじゃうし…」
『ヒャハハハッ』

ふっと意識を僕に戻し、バクラは悪ぶれる風でもなく笑った。





いつものことになってしまった人格交代。
いまの僕には入れ代わっても彼の行動がある程度把握ができるから、そんなに恐くない。


遊戯君みたいに同じような人がいてくれるからかな。


昔は気付いたら別の場所にいたり、友達が倒れていたり、散々だった。
それが原因で家族と離れ、一人で生活するようにまでなったんだし…





『なんだ?寝るのか?』
「うん…」


考え出したら落ち込んできて、僕は予習を打ち切った。


ベッドに横になるとバクラはいつも通り僕の布団の上にあぐらをかく。

実体が無いから重くはないんだけど…



前にこっちで寝たら?って言ったら『寝首掻かれたら困るからな』って言ってたっけ。
盗賊のころのくせで横になって寝られないらしい。



「おやすみ」
『おぉ』


電気を消し、僕は瞳を閉じた。



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『13番目の扉は開けてはいけないよ』

そう言われた少女は、最後、好奇心に負けてその扉に触れてしまう…


中にいたもの…それは…





「ここは…」


気が付くと、長い廊下の始まりに僕は立っていた。


沢山の扉が続いている廊下。




扉は全部で13個、

僕が立っている直ぐ横の扉だけが空いていて他の扉は閉まっている。






遊戯君に会う前の心の部屋だということが僕にはすぐに解った。

いまは彼と僕の二つの部屋しかないが、昔は13個、扉があった。
存在に気付くまでの僕は無意識にここに来ていた。





…そして、全部夢の中のことだと思っていた。




僕の部屋は一番目の扉で、その部屋以外どの扉も開いたことがなかった。

廊下をずっと歩いていくと最後の扉の前へつく…その扉の前へ立つとあの声が頭に響くんだ。







『13番目の扉は開けてはいけないよ』





(あの日と同じだ…)




はじめて遊戯君と…千年パズルと対峙した日…

ちりちりと胸の痛みを感じたあの瞬間、僕は今のように、この扉の前に立っていた。




いつもはなにか恐ろしいオーラのようなもので、近づくことすら嫌だったその扉が、


   その日は僕を待っている様だった。






あの日の様に扉に手を延ばす。




     きぃ…




指が触れるか触れないかの瀬戸際で扉が開いてゆく。













『待ってたぜ。宿主様よぉ』






地を這うような声が僕を包み込む。











最後の扉を開けてしまった少女の目に飛び込んできたのはまばゆい太陽。


美しいその姿に彼女はふらふらと手を延ばし、太陽に触れる。

…太陽の光が黄金となり、彼女の手に染み付いて離れなくなった。
それを神に咎められ、少女は神の下から追放されてしまうのだ。





僕の掌には…?






『てめぇは運がよかったなあ…普通の奴なら俺の扉に辿り着くまでに身を焼かれちまうっていうのによぉ…』


僕が開けなかった11の扉の中には所有のための試練というものがあったらしい。







『これから、よろしく頼むぜ。宿主様』




もう一人の僕…バクラが僕に笑いかけ、手を延ばす。

邪悪な笑みに怯えながらも僕はその手を取ってしまった。




手に焼けるような痛み…!







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「…はっ!」

目を開いた僕は、目に映ったいつもの天井にほっと胸を撫で下ろした。
嫌な汗が額を濡らしている。

『なんだ?またうなされてたのか?』

バクラが僕を見下ろしてくる。

「君と…会った日を…見てきた」
『あぁ?…あぁ、言葉が通じた日か?』
「うん…心の部屋の…扉が13個あったとき」
『へぇ…』

僕はふらふらと冷蔵庫へ向い、水を一口飲んだ。

『大丈夫かよ』
「ん…」

台所にへたりこむ僕にバクラは心配そうな顔をしている。

「寝よ…」
『そうだ、さっさと寝ちまえ』
「うん」

実体のない身体に支えられ、ベッドに横たえられた。
すぅっと息を吸うと僕は瞳を閉じる。

『変なトコロヘ迷いこむんじゃねぇぜ?』

バクラは僕の瞼の上に手を乗せ、そう呟いた。
僕の精神は心の部屋へ堕ちてゆく。





『今度はちゃんとこれたみたいだな』

部屋の前でもう一人の僕が待っていた。

「うん」
『じゃあな』
「うん、ありがと」

もう一人の僕は背中向きのまま手を上げ、向かい合わせの部屋へ入ってゆく。









…僕の中の孤独を作り出したのは君、
   



  


         …孤独を拭ってくれたのも君。









…憎むに憎めず、感謝するにもできない…









『あたまでっかちのおぼっちゃん』

バクラの言葉を思い出して、僕は頭を振った。






解らないモノを悩むのはやめよ。


僕も振り返り、自分の部屋へはいっていった。










…答えは永遠に闇の中なのだから。




                         END



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◇2002/9  UP◇

◆Wバクラでした。
バク獏というよりはWって感じを意識して書いてみました。
オリジナル設定しまくりで(爆)
Wの方々のそれぞれの関係の違いを感じてもらえれば嬉しいです。

遊戯は互いを認め、対等。
マリクは互いを憎み、闇のほうが全てにおいて強い。
バクラは互いに認め合わないが対等(闇のゲームうんぬんでは闇の一人舞台)
って感じなのですヨ、言葉にするのむづかしいなぁ(汗)